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recipe 拝む


マサト誰も死んじゃおらんのに
棺桶を造っておるんか
それとも誰かくたばりそうなのがおったかいな?
作業の手を続けながら
どちらも違うよ住職
手が空いてるから造ってるだけだ
暇を持て余すより作業をしてる方が落ち着くんだ
住職は頷いて成るほどと言葉を漏らし
わしらの御経を読むのと同じようなもんじゃな
手は口程に語るとはよう言うたもんじゃ
顔にはそいつの人生が出るってのならタマに聴くよ
人にはそういう側面も在るって事じゃよ
住職は言葉を続ける
裏と表が人に在るって事を聴くが
それだけじゃあない
もっと多様な面を持ち合わせて
人の性格や在り方はな多面体で成り立って居る
2面だと想ってる奴は
2面と想い込んでいるから
それしか見えないんじゃ
住職つまりだ半紙みたいな裏と表じゃなく
仏像のような立体って訳なのか
まあそんなもんだ
なあ住職なんで仏像を人は拝みたがるのかな?
マサトそれは簡単な事だ
拝みたくなるように造って在るからじゃ
そういうものなのか?
そういうものだ
もう一つ聴くが拝む行為は生きて行く上で必要なのか?
住職は視線を空に移して
金に困らない生き方が出来る人間はどれだけ居ると想う?
一握りだろ
住職は小さく頷き
誰もが生きて行くのに常に不安を抱えながら
日々を送る
この先無事に生きて行けるだろうか?等と想いながらな
確固たる保障等何処にも存在しないのだから
そう想うのは自然な事だ
何も考えていない奴でも漠然とは想ってる
どうにか成らないかと
だが殆どの場合が現実を変えられない
誰もが変えるだけのエネルギーと運と
材料を持ち合わせて居る訳じゃ無いからな
そういう現実の中に身を置いてると
何かに縋りたくなる訳だ
自身の環境を変えられるような何かにな
その何かとしての対象が人では無く
力を持つ見えない存在
つまり神や仏になる
そして意志の伝達の方法が唯一の拝むだ
まあ拝むってのは
鎮魂の拝むってのも在るから
願うだけじゃあないんだ
そのお手伝いをするのがわしらじゃ
生きて行く上で必要としてる人々が居るから
拝むが在りわしらが存在する
住職の話を聞いてると
なんだか棺桶と同じ様な感じがする
人は必ず死ぬから棺桶を必要とする
それと変わらないんじゃないか?
マサトは面白い事を言うな
住職は笑みを浮かべて
拝むと棺桶は死んだ本人と他人の為にも
必要なんじゃ
つまり死ぬ言うのは
本人だけの問題じゃない
そういうことだ
住職それは死んでまでも他人に関わるって事なんだな
死ぬって事もメンドクサイもんだな
生きるって事もそうだけど
マサト単純な事だ
生きるがメンドクサイから
死ぬもメンドクサイ
死は生きるの延長に在るものだからな
住職オレはシンプルに生きてシンプルに死にたいもんだ
マサトそれはお前の在り方次第だ
そういうものなのか?
そういうモノだ
明日も晴れそうだ住職は空を見上げて
言葉を呟き静かに立ち去った


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recipe 鴉

聴き慣れた羽音が耳に触れる
艶のある黒い羽根が雪子の傍らに舞い降りた
声無き静かな会話が始まる
空から見下ろすと
此処の集落で誰が何をやってるか
何処に居るか解るんだ明確にね
人だけで無く
犬や馬その他の動物までも
前後の動きや周りに気を配っても
空までも気にする奴はそう居ない
そもそも空から見られてる
そういう発想が欠けてるからね
もし姿に気が付いても
呑気に飛んでるんだなとしか想ってない
上から見られるって事に関しては
無防備なんだよね誰もが
空から襲撃されるって事が殆どないから
そうなるんだろうけど
雪子はそうねと頷いた
雨か雪でも降らない限り
空なんて人は見上げたりしないものだ
ところで雪子
最近妙な奴らがうろついてるよね
淀んだ匂いがするんだよね
そうねそんな感じね
濁りが身に付いて纏ってる
雪子あいつらロクなもんじゃないね
鴉にロクなもんじゃないんなんて言われるなんて
哀れな感じもするが根の深い奴らだ
そうそう
集会所で奴らの元締めと
タケシの話しを聴いたんだけどね
此処から10人程連れて行くらしいよ
女も一人混じってるって言ってたよ
誰?それ
黒蜜って言ってたかな
小夜それって何時の話し?
小夜は雪子がこの鴉に付けた名前で
名前を持たなかったこの鴉は名前を持った事を随分気に入ってる
此処に来るちょと前の話しだよ
そう・・
雪子は目を伏せた後に視線を空に移した
奴らを死の淵に落とす事等その気になれば造作もない
そうなれば黒蜜は家に戻れるだろうが
そのうちにまた何処かに売られる嵌めになるだろう
留まる場所も無ければ
行く場所も無か
黒蜜には死んで来世に期待するくらいしか
可能性は無さそうだ
残酷な未来が待ってるなら
私の手で静かに眠らしてやるか
苦しむ事も無く
痛みも無く
静かにに永遠の眠りに就ける
黒蜜ももう少しマシな家に生まれれば
違った未来を選ぶことが出来ただろうに
貧困な家に生まれる事は困難な生き方を背負うもんだ
好き好んで選択したのではないが
私が私で在りたい為に生れて来た訳ではない
生まれ育って環境に左右され私に成ってる
そんな言葉が頭に浮かんだ
ねえ雪子黒蜜に教えてあげた方がいいんじゃないの
あんな奴らに着いて行ってもロクな目に合わないって事を
小夜黒蜜は解ってるのよ
でも出来ないのよ断る事が
え??なんで
家庭の事情って奴よ
人間の世界って複雑なんだね
逃げだせばいいだけだと想うんだけね
そうだ想いだした
黒蜜は棺桶屋と御団子食べてたよね
最近御団子食べてないなあ
食べさせてあげるわよ
御団子欲しいなら
小夜の黒い瞳を覗き込んだ後に
雪子は棺桶屋ねと小さく呟いた
屍を埋める男は
濁っていなかった

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recipe ズレ

大きな違いはな
神に頭を下げても他人から見たら信仰が深いと想われる
だが簡単に金に頭を下げる奴は浅ましいと想われる
そしてそんな奴は簡単に金から見捨てられる
耳を傾けていたタカシが
コウジオレはなそういう救いのない連鎖には関与したくないんだ
買う方にしても売る方にしてもな
コウジは目を細めてタケシを見つめた後視線を下に落とし
金に余裕のない人間が普通で居続けるって事が
生き方としてはとても難しいんだ
それを望む人が多いのも事実では在るんだが
タケシがそれを望むのであれば
オレはこの間の話しを勧めない
何かを強要するのは好きじゃないんだ
そうか
だが嵌めるのは好きだろうと喉まで言葉が迫り出したが
それは言葉にしなかった
生き方や在り方を決めるのは環境に大きく左右されるが
結局はそいつ自身じゃないのかコウジ
それはなタケシ
僅かでも希望が残って居る場所までの話しだ
そこから落ちたら失望と絶望しかない
そんな場所には自分の生き方なんて存在しないんだ
ゆっくりと死に蝕まれて行く
それが在るだけだ
羽根を?がれた鳥と同じだ
何者かの餌食になるか
死が迎えに来るかだ
力を失ったとたんに現実はとても残酷になる
コウジ此処の集落に居ても現実は残酷だよ
そうだったなコウジは口元に歪んだ笑みを浮かべた
風が僅かに吹いて庭の樹から葉が舞い落ちた
視線を上げた先には樹の上に鴉が佇んで
静かな視線を落としている
ふと素朴な疑問が頭に湧いた
鴉を食べた事があるか?
コウジは頭を振って無いと応えた
オレも無いんだが
鴉を食べた事が在る奴は聴いた事が無いんでな
聴いてみたくなったんだ
何故食べないんだろうな?
きっと味が不味いからだろ
もしくは狩るのに手間が掛かり過ぎる
コウジもしかしたらもっと単純な事で
色が黒いからじゃないか
黒い食べ物ってのは身体に悪そうだろ
だから手を出さないんじゃないか
見た目が悪いと味も悪いからなと呟いた後にコウジが
人も同じようなもんだ
見た目に性格やそいつの生き方が出るからな
鴉に視線を移したコウジが
アレは
煮ても焼いても食えないだな
だがなタケシ食べる方法が無い訳じゃない
鴉がって訳じゃあないが
そんな時は
そんな時は?
生で食うんだ
意外と美味かったりもするが
場合に寄っては死の淵を漂う想いもする
それじゃあ食わない方がマシじゃないか
そうだよ生命の危機に瀕した場合はな
だがものすごく美味かった場合は
それが重要な情報になったり金に変わったりするんだ
だからだ生で食う場合は
まず生で食べた奴を探す事だ
そいつが居ない場合はどうするんだ
コウジの口元が歪んだ
そういう事か
そうだよ誰かに食わして試すんだ
自らが負うリスクは少ない方がいいからな
他人に対しては残酷だなヤル事が
タケシ世の中ってな
他人の犠牲の上に成り立ってるんだ
だからと言ってだな
まあ聴けよ
それをな心の痛みとするか
そういうもんだと受け入れるか
それの違いで自身の在り方
身の置き場所が変わるだけだ
他人を使うか
他人に使われるか
それに依る立ち位置の違いと似たようなもんだ
雇用の立場に立つと残酷になれるが
雇われる方は成すがまま
成されるがままって事か
ただのパワーバランスだ
そういうのでバランスが保たれている
共存しなければ生きていけない
人の背負ってる業みたいなもんだ
一つ確実な事は
オレの生きてる現実と
タケシの生きてる現実の間にはズレが在る
が故に理解しずらい
それだけの事だ
同じように生きてるように見えるから
同じだと錯覚しがちだが
それぞれ違うんだ人って奴はな
コウジお前の話を聴いて想ったんだが
違うからそれを補って集団で生きようとするのが
人なんじゃないか
集団での生活をお互いに造って行くのが
人の生活だと想う
コウジのやってる事は在る種の間引きじゃないのか?
そうだなと呟きコウジは
まあそんなとこだと自嘲するように言葉を零した
僅かな沈黙が二人の間に横たわった
腰を上げてコウジに
そろそろ行くわ
そう伝えた
コウジは顔を上げて
じゃあなとさよならの代わりに言葉を返した
タケシはコウジに軽く手を上げ
背を向けた
一度も振り返る事も無く

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recipe 残酷

集会所の空き地に椅子を円形に並べて
コウジを含めた6人は座って居る
11人だ決まってるのは
何れも20代だが
一人だけ10代の女が居る
追加でもう一人入るかもしれんが
あまり期待はしてない
コウジの説明を耳にした従者の一人で在る
タイチがそれで暫くはと言い掛けて
口元に歪んだ笑みを浮かべた
そういう事だコウジが言葉を続けた
人数も揃った事だし
これ以上此処に踏み止まる
意味は無くなった
出発は明後日の予定に決めた
コウジは従者の連中を見渡して
声のトーンを落とし
解ってるとは想うが
それまでに下手を打つなよ
全員が無言の頷きで応えた
コウジに視線が集中してる中
テツオが視線を外し
足音がと声を告げ
背後を振りむいた
こんなとこで会議中だったのか
声の主はタケシだった
タケシどうしたんだ愛想の笑顔を浮かべたコウジが声を掛ける
その後の様子はどんな感じか気になったんでな
コウジは周りに居る従者の連中に視線で
簡単な意志を伝えた
それぞれは腰を上げて静かに立ち去った
タケシに視線を一度も合わせる事無く
タケシは彼らの背中を眺めて
良く飼い慣れされてる連中だと言葉を漏らして
コウジに向き直った
座ったらどうだとコウジに椅子を勧められて
コウジの横にタケシは腰を降ろした
先程の質問に対しての応えだがと
コウジは切り出した
以前話した通りの人数で10人が行く事になってる
若い連中ばかりだ
一人予定外だったのが10代の女が混じってる
タケシの表情が一瞬曇った
誰だそれは
カンスケのところの娘で黒蜜って名だ
まあ此処だけの話しだが
生活に困ってるんで買ってくれと頼まれたんだ
カンスケが言うには子供はまだ4人も居るし
これからも金が掛かる
今居る娘に嫁にでも行かれたら
それはそれで結納やなんやかやと金もかかる
とてもじゃないが今日を暮らすだけでも難儀しとるのに
それこそ災難だ
それに此処まで育てるのも只じゃなかった
なんとかならんかとな
頼まれたんだ
お前ならそういう道も知っとろうがと
そう言った後カンスケはな
こう言ったんだ
オレの眼をじっと見てな
若い女なら高く売れるんだろ
コウジは一度視線を下に向けた後に
カンスケがどういう男かは良く知らんが
奴は一つだけ真実を語った
若い女を高く売る
タケシは気分の悪い話しだと低く呟いた
なあタケシ貧困ってのはな
醜くくとても残酷なんだ
自分の娘でも金に成ると想えば
簡単に売ってしまう
そんな事をするのはカンスケだけじゃあない
此処の集落では奴だけだが
幾らでも居るそういう奴は
タイプや事情は様々だが
共通してるのは
金を受け取る時
地面にこすり付けるくらい頭を下げて喜ぶ
カンスケも同じだった
涙を流さんくらいに喜んでいるんだ
だけどなそれは
オレに頭を下げてるんじゃないんだ
金に頭を下げてるんだ
神様ありがとうございます
あれと同じようにな


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recipe 囁き

子供をあやしてる黒蜜に女が
関わったりしてないよね黒蜜と
顔を近づけ黒蜜の瞳の奥を覗き込んだ
黒蜜は一瞬瞳孔が開き動きが固まったが
涼しげな笑顔を浮かべ
そんな事はないですよと
さらっと流した
そう?それならいいけど
子供に視線を変えた女が
千鶴お団子食べ終わった?
美味しかったよ
女を見上げた子供の口から言葉が漏れる
食べ終わったらごちそう様でしょう
ごちそうさま
子供は親の声を模倣して言葉を憶えるのだろうか
そんな疑問が横切った
さあ帰ろうか千鶴
子供が黒蜜の腕から離れ
女の足元に寄り添った
じゃあねと言葉を残して
小さな手を振り続ける子供と
女の距離が遠ざかる
2人の姿から視線を外した黒蜜が
そろそろ私も行かなきゃ
腰を上げて
視線を向けた
いっぱい御馳走になっちゃいましたね
ありがとうござます
頭を下げる
黒蜜
何ですか?
大事な事を言葉にしようと想うのだが
上手く思考が纏まらない
黒蜜の視線がじっと顔に張り付く
一つ言い忘れた事を想いだした
オレはな生きた人間を棺桶に入れて
埋めるような事はしない
埋めるのは死んだ人間だけだ
これはオレの仕事の作法だ
だが
運ぶだけなら話しは別だ
誰にも気ずかれず
棺桶に入れて運ぶだけならな
耳を傾けていた
黒蜜が
顔を近づけて耳元で
やっぱり優しいんですね
そう囁いた
少しだけ
ぞくっとするような囁きだった
後2日此処に泊まるから
どうするか自分で決めろ
黒蜜は
もう決めましたから
そう言って
おれの瞳を覗き込み
微笑みを残して立ち去った
後には夕暮れが近づく空の下の
静かな風景だけが残っている
もう決めましたから
受け入れたとも
拒否したとも
取れる
どちらを決めたのだろう
何れにしても
女って奴は一度決めたら
迷わない
誰の言葉だったかな
残りの酒を静かに喉に流し込んだ

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recipe 異質


雪子さん
呼ばれた女は僅かに笑みを浮かべた
美しさと儚さを纏ってるような独特の存在感を
漂わす女だった
此処で生まれ育った女じゃない
人間の持ってる質のようなものが異質だ
それを感じる
此処の人間は良く言えば大らかさが在る
油断とか隙みたいなもんが身体に馴染んでる
雪子と呼ばれた女にはそれが馴染んでいない
拒絶してる匂いがする
オレ自身も似たようなとこは持ち合わせているが
何かが違う
あの女みたいには慣れないって何かだ
黒蜜が千鶴ちゃんと子供に声を掛けてを振る
呼ばれた子供も小さな手を振り
黒蜜に向かって駆け寄って来た
黒蜜が大きくなったね
と子供を抱き上げる
こういう自然に子供に接する動作がオレには出来ないなと心で呟く
男と女の違いなのか環境なのかは
解らないが苦手だ
オレに取ってはだ
たぶん家庭とか家族を持つ事に向いてないのだろう
子供が笑いながら黒蜜黒蜜と呼んでいる
エライねえ千鶴ちゃん私の名前を憶えてるんだ
眺めているオレの視線に子供の視線がぶつかり絡まった
子供の瞳が大きく覗く
オレも覗き返すが
こんな時は次にどうすれば良いかが解らない
とりあえず
団子を食うかと勧めてみた
お団子お団子
子供が笑う
黒蜜に団子を食わせてやれと
告げると
黒蜜が団子を一串掴み
子供が食べやすいように串の上の方に団子をずらして
食べさせ始めた
子供にも団子なんて優しいんですねと黒蜜が言葉を零す
たかだか団子だ
大した事じゃない
それにお前もまだ子供じゃないか
そうでしたね
背後から静かに声が降って来た
お団子頂いてありがとうございます
雪子と呼ばれた女が
佇んでいた
気配を全く感じさせずに
黒く深い瞳が顔を射す
視線を外さずに黒蜜のお知り合いと
小さな質問を投げかける
黒蜜がさっき知り合ったばかり
団子を分けて貰ったのと
お寺に来てる棺桶屋さんよと
そうなんだ見た事が無い人だねと想ってね
ちょと住職に用が在って立ち寄った帰りに
此処で適当に団子と酒を飲んで居るとこなんだ
気持良さそうね此処でお酒なんて
女の眼には笑みが浮かんだ
あんたも飲むかい?
この子を連れてるんで遠慮しとく
気を使わないでいいのよと
言葉を続けて
千鶴ありがとうを言った?
次の団子を口に入れようと開けたままの口で
あっと気が付いた表情を顔に張り付けて
ありがとうおじさん
いいよ
笑みを浮かべ子供は口を開けて団子に向き直った
視線を上げて
周りを見渡した後に
呟くように女の口から
最近此処も妙な奴らが入って来てね
居座ってるようだから
その後は女の口から言葉は出なかったが
気を付けろの意味なんだろう
寺の住職もちらっとそんな話をしていたよ
そのうち出てくだろうって住職は言ってた
そうね満足したら出て行くでしょうね
こんな集落で何に満足するんだろうな
さあねと応えた女の瞳は意味在りげな影を湛えている

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recipe 黒蜜

だが女は顔色一つ変えずに
生きてるのに埋めないでくださいよと
微笑んでいた
心配するな生きてる奴は埋めないよ
冗談だから気にするな
解ってますから
ところでお前は幾つなんだ
18ですよ
仕事はしてるのか?
この時間に歩いてるくらいですから
家の手伝いだけですよ
それで食えてるならいいじゃねえか
それがなかなか厳しくって
もうすぐ売られそうなんです
ペットが飼えなくなって売られる
そんな口調で女の口から自身の事が語られる
親にか?
女が首を少し傾げて頷く
そんな家なら売られる前に逃げればいいじゃねえか
諦めのような微笑みを浮かべた女は
受け入れ先も働く場所も無いのに何処かに逃げても
辿り着く場所は同じかそれ以下だと想います
それなら棲む場所が在るだけ
まだマシなんじゃないかと
お前18にしては現実的な思考だな
オレがお前と同じ年の頃には何も考えてなかったな
勢いだけで生きていた
酒で喉を湿らせて
聴き忘れていた事を女に尋ねた
名前は?
黒蜜です
良い名前だ
自然に口から言葉が零れた
女の視線が顔に張り付いてるのに気が付いた
オレの名前を言ってないな
マサトだ仕事は
棺桶造りですね
そうだ
入れるのは死んだ人間だけだ
前から気になってたんですけど
中に入って生き返るなんて事はないのかな
さあ?どうなんだろうな
在るかもしれないし無いかもしれない
埋めたら掘り返す事はないからな
もしそんな事が在っても生きては出られない
たぶんすごく絶望的な気分になるだろ
助けを読んでも土の中からじゃ声は届かないし
誰も気が付く事はない
なんかそれって・・・
女の言葉が途切れた
どうした?
何でもありません
女の顔に曖昧な笑顔が浮かんでいた
自分の事と想いを重ねたのだろうか
女の顔を見つめてる内に言葉が零れた
絶望的な状況って奴は土の中でも
地上でもあんまり変わらないような気がするな
ただそんな状況でも生き延びる奴は
生き延びる
持って生まれた運の強さなのか
偶然なのか
その辺りは良く解らんけどな
黒蜜お前は自分の運が強いと想うか?
微妙なとこだと想います
売られかけてますから
酒を喉に流し込み店の女中に声をかけ
筆と墨と半紙を持ってこさせた
黒蜜名前を此処に書いてみろ
墨に筆を浸し黒蜜は半紙に名前を
さらりと書いた
書かれた文字は全体のバランスの良さと
流れるような勢いが文字に宿っていた
オレは占いはやらないが運は強いと想うぞ
文字にそう出てる
占いやらないのに解るんですか
解るんだよ文字に関してだけはな
自分の書いた文字を見て
黒蜜がありふれた書体だと想うんですけどねと
零した時に少し離れた場所から子供を連れた女が歩いて来るのが視界に触れた
黒蜜もそれに気が付き
声をその女に掛けた

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recipe 団子

人を殺すのに幾ら掛かる?
オレは棺桶屋だ殺し屋じゃねえよ
ふざけた事抜かしてると埋めるぞ
マサトは此処の集落の外れにある
寺の住職に用が在り立ち寄った帰りに
今日宿泊する宿の軒先に出してある
長椅子に座りテーブルの上に置かれた団子を摘み
日本酒を軽く飲んでいたところだった
住職に用がと言っても
大した用じゃない
日頃仕事で世話になってるから
酒を土産に顔を覗いた程度の事だ
営業活動も兼ねた息抜きみたいなもんだ
職場は此処から山一つ越えた街の方だ
毎日同じ仕事場に行き
同じ作業をする
それはそれで在りなんだが
気持に少しづつ淀みが溜ってくる
溜った淀みは何処かで流す事が必要だ
だから住職の元を訪れる
仕事でだって理由で
そうやって適当に淀みを流す
眼の前には
正確には椅子の隣には
10代の女が居る
小柄で人形のような顔だ
童顔系の美少女という感じだ
団子が運ばれて来た時にちょうど
通り掛かったから
一つ食うかと声を掛けた
躊躇う事なく隣に座った女は
団子を2串し口の中に納めた
知らない人に声をかけられたら気を付けろって
教えて貰ってないのかと
喉まで声が出がかったが
団子を勧めたのオレだしなと想い声を留めた
代わりに腹が減ってるのかと質問すると
女は頷きを入れたので
店の女中に声をかけ
団子をもう一皿注文した
好きなだけ食えと女に声をかけ
運ばれてきた女に団子を勧めた
アナタは食べないんですかと
団子の皿とオレを交互に見つめる女に
食べたくなったら又注文するから気にするなと
言い渡し
日本酒を喉に流し込んだ
団子を食べてる女を横眼に店の奥に声をかけ
お茶を持って来させた
お茶まで頂いてと女が頭を下げた
酒を勧める訳にはいかないからなと言うと
女はですよねと微笑んだ
穢れの無さそうな微笑みで
惹かれる感情がざわざわしたが
こういうやつがわりと危なかったりするんだよなと
別の感情が囁いた
団子の串が5本になった頃
女が此処の人では無いですよねと
質門のような疑問のような事を口にしたので
棺桶屋で住職に用があり此処に来たんだと言葉にした時に
女に人を殺すのに幾らかかると質問されて
つい怒り口調で言葉を返してしまった
口から言葉が出た後に
こいつはまだ10代の女だったんだと
反省めいた感情が起こった

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recipe 上と下

つまりこういう事かい?
コウジの紹介で稼ぎのいい仕事に着ける
3か月程度の短期から1年程の長期も選べるって事だな
タケシは枡酒を飲み干してコウジに視線を充てた
コウジはタケシの枡に酒を注ぎ
港の仕事を仕切って居るんだが
荷降ろしに運搬に仕分け
仕事によっては多少きつかったりもするが
賃金はかなりいい
それに仕事自体が途絶える事がない
港は流通の要だからな
始めた頃は取り扱う仕事の量も少なかったのだが
10年もやってれば
それなりの信用や付き合いも出来てきて
取り扱う荷の量が半端なく増えてきてな
今雇ってる人員じゃ捌ききれなくなってきてるんだ
現状ではそれを無理して通してるんだが
何時までもって訳にはいかない
そのうち仕事に嫌気が射して
止めるやつが出て来るのは眼に見えてる
いくら稼ぎが良くても働き詰めは誰だって嫌気が射すもんだからな
視線を一度落としたコウジは
一呼吸置いて
新たな雇用は避けて通れない課題になってるんだ
雇用するに当たっては健康な身体と働く意欲さえあればいいんだが
なるべくなら身元のしっかりした奴がいいんでな
トラブルの防止やすぐ辞めて貰っても困るからな
耳を傾けていたタケシが
一人や2人って訳じゃないんだろ?
雇用するのは
コウジは頷きながら
10人程と考えてる
新たに10人も増えると古参との間に軋轢が生じたりするし
入った奴らにしても色々と戸惑う事も在る
誰かそいつらを纏める奴が必要となるんだ
云わばリーダーが必要とされるんだ
そのリーダーにタケシが成ってくれれば
多いに助かる
人を纏めたり人の上に立つ資質がタケシには備わってる
オレはタケシの事をそう見てるんだ
タケシは手の平の枡酒を見つめながら
人を纏めたりするのは苦じゃない
メンドクサイと想う事はあるけどな
だがその前にオレは行くなんて一言も言ってないぞ
コウジは眼を細めて
仕事を選ぶのに慎重さや思考する時間は必要だ
簡単に返事するような相手なら
オレはリーダーなんか頼んだりはしない
タケシだからオレは頼んでいるんだ
それと一つ言い忘れていたが
リーダーには特別の手当てを毎月付ける
賃金の差を付ける事によって
階級が生じる
職場に置いてはそれは必要な事なんだ
階級を意識することがな
コウジは枡酒を一気に飲み干し
考えて置いてくれ
良い返事を期待してるよ
そう言ってタケシの傍から立ち去った
手に持った枡酒の酒の中にはタケシ自身の顔が映ってる
冴えない話だあんな奴に仕事の世話をされるなんて
何が階級だ
ふざけた話しだ僅かばかりの金で雇って
どうせ使い捨てだろ
あんな奴の話に耳を傾けるなんて
生活に余裕のない証だ
枡酒を喉に流し込む
一人で好きに生きてる時は適当な稼ぎがあればそれで自由だった
それが今じゃ嫁と子供3人の5人家族で
生活費が随分掛かるようになった
稼いでも稼いでも生活費にすべて消えて行く
消費する生活費以上に稼がなくては
貯金も生活の余裕も生まれない
だが稼ぐ手段も材料も此処の集落では限られてる
一つの田から収穫できる米の量が限られてるように
裕福になれる要素が何処にも無いんだよな此処には
上を見れば失望だらけだ
下を見れば諦めと絶望だ
綱渡りの現状をキープし続けるしか生きる手段がない
オレだけに限った事ではないが
貧困に塗れて生きて行くのは
正直しんどい話しだ
漕ぐ手を休めたとたんに沈む船に乗ってるようなもんだ
それでも
視線を枡酒に落とした
生きるしか無い
だがコウジのような奴に
更に底辺まで引きずられるのは
まっぴらだ
タケシは枡の中の酒を一息に飲み干した

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recipe 竹

竹の密集して生えている場所は腐らないそうだ
風通しが良いのと微生物が発生しないせいでな
それに竹が余分な水を吸い取ってくれる
この竹の青は土中から水分を吸い取ってる証だ
コウジは従者の一人のテツオに説明した
テツオは刀や銃器の扱いに長けていたので
呼び名でテツオと呼ばれるようになった
生まれついての名前は
誰にも呼ばれた事がない
本人も何処かに忘れてきた
年齢は20代後半で痩せた体系をしている
顔は童顔で見た目は10代のようだが
切れ長の瞳には静かな狂気を宿している
吸い取って青々してるなんて
オレ達みたいだな
竹は山の風通しを
オレ達は世の中の風通しを良くしてる訳だ
そういう事だテツオ
適度に狩り獲った方が竹も
人も生きやすいんだ
春になれば竹の子を取るだろ
あれは竹が増えすぎないようにする為の
管理の行為の一つだ
同時に食べる行為でもあるがな
耳を傾けていたテツオがコウジに
視線を向けて
一つ気になる事が
ただの単純な疑問なんですが
何故今回は生まれた育った場所を?
オレ達は誰も過去の事を語ろうともしないし
想い出しもしない
以前誰だったかなんて事も知らない
その方が都合がいいんだと想う
過去を知ればそれが足枷になる事があるから
そういうリスクがあるのに何故?
コウジはテツオの瞳をすっと見て
視線を竹に移して
此処が嫌いだからだよ
そうですか
テツオも生まれ育った場所は嫌いだった
近寄りたくもない未だにそう想う
そういう場所に足を再び踏み入れるって事は
嫌いな以上に許せないんだろう
コウジは多くは語らないが
此処でいつもの事をやるって事は
そういう事だ
コウジの口から言葉が零れる
テツオ此処を出るまでオレは海を見た事がなかった
初めて海を見て触れた時には
感動を憶えた
風や潮の香り海の感触
それまで触れた事の無いものだった
それと同時にオレは知らなかったんだ
自分に対する失望も
あれから10年以上経過した
そういうのが在って何かが変わった訳じゃない
ただ知ったそれだけだ
此処に住んでる連中は殆どが死ぬまで
此処から出ない
海を知る事も無く
触れる事もなく
生涯を終える
此処から出なければオレも同じだった
だがオレは此処から出て
別の生き方を見つけて
生き延びて居る
何の伝手もなく飛び出して
テツオ何故生き延びられてるんだと想う?
野垂れ死にもせず
生き延びる才能を持っていたから?
コウジは口元を緩め
運が良かっただけだ
それだけだ
竹の子で狩られずに此処に残ってる
竹も同じだ
ただ運が良かった
それだけだ
才能なんてものは
自分で持ってると想ってたら
それはそいつの勘違いだ
他人が認めてこその才能だ
他人が認める何かを持つ
それも生き延びる方法の一つだ
風が吹き竹を揺らし
笹や枝のすれ合う音が零れる
暫しの間2人ともその音と
竹の群がる景色の中に無言で佇んでいた

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